

原子力工学専攻の歴史は、原子力平和利用の世論の国民的高揚を受けて、1957年4月(昭和32年)に大学院に原子核工学専攻が設置されたことに始まる。阪大全学の原子力利用(準備)委員会で決まった方針は、理学部にサイクロトロン(加速器)の再建、産研にホットラボの、工学部に学科の設置という分担であった。
原子核工学専攻は第1講座(原子炉工学:吹田徳雄教授)と第2講座(原子炉材料学:佐野忠雄教授)発足した。これが、その後、物理系と化学系のバランスで教室が拡張・運営される基礎となった。
学舎は、実験研究室は枚方学舎に展開し、講義室・教授室は東野田学舎にあり、教官・学生とも京阪電車で京橋と御殿山を行き来した。第1講座は、原子炉、粒子加速器、放射線物性の研究を中心に展開し、第2講座は、ジルコニウム等の原子炉材料の研究よりとりかかった。第1回大学院生は4名で、本学の工学部と理学部の卒業生であった。
1959年に第3講座(原子核機器学:桜井良文教授)が設置され、原子炉制御の研究より開始した。1960年には、工学部共通施設としてRI実験室が発足した。また、第4講座(原子炉化学工学:品川睦明教授)が設置され、核化学の研究が開始した。
1962年の学部学科(原子力工学科)創設に先立ち、阪大に新設の基礎工学部への参加も検討されたが、工学部にとどまることになった。また、教室の中心的教育・研究施設として、「未臨界実験装置」の概算要求が1960年頃より始められ、メーカーと共同での設計研究が進んでいたが、設置が認められ、1963年に建設が始められた。
1962年(昭和37年)、原子力工学科第1回学部学生30人が入学した。また大学院は「原子力工学専攻」に改名した。
1964年、第5講座(原子炉物理学:関谷全教授)が発足し、原子炉理論と中性子物理の実験研究が開始した。ほぼ同じく、第6講座(核燃料工学:井本正介教授)が発足し、教室は6講座体制となった。この6講座体制は、その後協力講座となる産研、レーザー研等の部門を除くと現在までに至る本教室の基幹体制の完成であった。
阪大の吹田地区への統合計画により、原子力工学科は1968年(昭和43年)7月吹田キャンパスに移転した。この機会に、産研放射線実験所(川西所長)との協力関係を考えて本館を産研寄りに配置し、未臨界実験装置棟、プラズマ・加速器実験棟、核動力実験棟等の、特殊実験装置の入る特殊実験棟4棟を産研と核物理センターの間に配置することとした。この配置により、阪大内関連学科・研究所の原子力関連研究・教育に協力体制が築かれることを配慮したものである。また、これらの関連部局との共同で、「放射線工学科」の新設が計画されたが、実現していない。
吹田移転の実現により教育と研究及び学務の場所が統一されたので教室の教育研究の活力は大いに高まった。しかし、残念ながら、1969年(昭和44年)に入り「大学紛争」が阪大に及んだことにより、原子力工学科本館が封鎖され、空白の2年間とその後の後遺症を生むこととなった。大学紛争が終わり、原子動力実験棟が落成した1970年3月後は、原子力工学科はいわゆる無風期を迎えた。
1978年(昭和53年)には、核融合炉研究のため「大阪大学強力14MeV中性子工学実験装置(オクタビアン)」の設置が認められ、学科をあげて建設にあたり、1981年完成した。この装置は学内外の利用に供され、教室の研究活力の向上と国際化に貢献してきた。現在も活動中である。
この間、(1970〜1996)、創設期の教官の定年退職(吹田、品川、佐野、関谷、井本)と人事の移動、第3講座制御研究グループの基礎工学部への異動と第5講座の核機器・中性子工学グループ(住田健二教授)の第3講座への異動・担当があった。また講座担当教授も、第1講座(吹田→桜井→宮崎慶次)、第2講座(佐野→三宅正宜→桂正弘)、第3講座(桜井→住田健二→高橋亮人)、第4講座(品川→山本忠史)、第5講座(関谷→住田健二→竹田敏一)、第6講座(井本→三宅千枝→山中伸介)と代替わりした。
1995年より始まった大学院重点化により、原子力工学専攻は「電子・情報・エネルギー系」にはいることとなり、学部学科は電気・通信・電子・情報システム・原子力の5学科をまとめて「電子情報エネルギー工学科」として学生募集、教育することとなった。2年次より「原子力工学科目」のコースとして定員40人で教育する。大学院定員は1学年当り、修士20名、博士10名に増員された。旧基幹6講座は新たに、2つの大講座に再編された。それらは、「核エネルギー工学講座」(旧第1、第3、第5講座)と「原子力材料工学講座」(旧第2、第4、第6講座)である。旧講座の名称は大講座内の「研究領域」名として残り、研究室を構成している。協力講座として、産研の2つの部門(放射線物性、量子ビーム)、レーザー研の2つの部門、超高温工学研究施設1部門が加わる陣容となった。
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